グロースハッカーは、新時代のマーケティング担当副社長だ

Yusuke Takahashi PhD
GrowthHacker jp
Published in
14 min readApr 11, 2016

--

グロースハッカーは、新時代のマーケティング担当副社長だ

この記事は、2012年04月27日に起業家でありブロガーとしても有名なAndrew Chen @andrewchen が、彼のブログでグロースハッカーについて紹介し、爆発的に拡がるきっかけを作った記事を翻訳したものだ。原文はこちら 。翻訳掲載を快諾してくれたAndrew、ありがとう!GrowthHacker.jpでは、今後もシリコンバレーおよび日本、アジアのグロースハッカーに関する議論や事例、人物を、記事の翻訳および直接のインタビューや取材を通じて紹介していきます。

「グロースハッカー」の台頭

新たな役職である「グロースハッカー」がシリコンバレーの文化に溶け込みつつある。その台頭は、コーディングおよび技術的な切り口が、現在の“優秀なマーケター”に不可欠な要素となったことを物語っている。
グロースハッカーとは、いわば“マーケターとコーダーのハイブリッド”だ。製品の顧客獲得という普遍的課題に対し、A/B テストやランディングページ、バイラル係数、メール配信の仕方、Open Graph などから、その答えを導き出す。そして、定量的測定、スプレッドシートからのシナリオモデリング、多くのデータベースクエリを重視し、ダイレクトマーケティングの規律も積み重ねる。プロダクト・マーケット・フィット(以下、PMF)前であれば、グロースハッカーは製品の中核に確実にバイラル性を組み込むし、PMF後であれば、すでに機能している方法を促進させることもできる。

これは、単純に一つの役職にとどまらない。マーケティングチームそのものの概念をも覆すものでもある。非技術系マーケターを率いるマーケティング部長に代わって、グロースハッカーは、エンジニアで構成されるチームを率いる“エンジニア”なのだ。

製品を大規模プラットフォームに統合し最適化していくプロセスは、マーケティング、プロダクト・マネジメント、エンジニアリングを複合的に必要とするものであり、これらの役割が同時に機能するようにすることにより、製品自体が自らマーケティングをしてくれるように製品を作り込むことができる。メール配信方法、ページロード時間、Facebookを用いたサインインなどを改善するプロジェクトは、もはや単にテクノロジーやデザインについての意思決定にとどまらず、市場で勝つための強力な武器なのだ。

超巨大プラットフォームにより1億以上の消費者にアクセスできるため、彼らの存在意義は計り知れない

グロースハッカーのスキルは計り知れない程貴重で、新製品の成長曲線の軌道を変えることができる。歴史上初めて、新製品をわずか数年間で数千万のユーザーに普及させることができる時代なのだ。PinterestやZynga、Groupon、Instagramなどが良い例だ。強力なトラクション(牽引力)を持つ新製品は、毎週のように出現し続けている。数百万のユーザーを有するこれらの製品は、FacebookやAppleなど数億のユーザーを有する新しいオープンプラットフォームの上に構築されている。1995年当時、ダイアルアップで接続するたった1600万人にしか使われていなかったインターネットは、2012年現在、20億以上の人々がアクセスしている。この前例のない膨大な数の消費者たちが、非常に強力なバズパワーを秘めたコミュニケーションプラットフォームを活用しはじめたことで、新製品の拡散スピードは急激に速まっている。市場規模だけでなく、市場の動きも加速しているのだ。

従来のマーケティング方法は、新聞、テレビ、会議、小売店など数千万の人々にアクセス可能なコミュニケーションチャネルにのみ依存し、そこから情報を発信すべく、広告代理店、PR、基調講演、事業開発の人材を使ってきた。現在に至って、一断片化した従来のコミュニケーションチャネルに依存することは、いわば“時代遅れ”なのだ。製品を最も速やかに広める方法は、MBAではなく、APIを使ってプラットフォーム上で流通させることである。現在の事業開発はAPI中心であり、人材中心ではない。

これまで、PRとマスコミは顧客獲得の推進力であったが、現在はあなたの製品へのFacebook連携が遅れていることを示しているに過ぎないのだ。長い間、非技術系の役割と考えられていたマーケティング担当副社長の役割は急速に影をひそめ、その地位に新たな“マーケターとコーダーのハイブリッド=グロースハッカー”が台頭してきているのだ。

Airbnbのケーススタディ

Airbnbのケースを例に、この考え方を解説してみよう。まず、クリック率(以下、CTR)の馬鹿げた法則を思い出してほしい :

やがて、すべてのマーケティング戦略は馬鹿げたCTRに落ち着く。

この法則の逆は、もしあなたがある市場への最初の参入者である場合、または、マーケティングチャネルへの最初の参入者である場合、目新しさと競争相手の欠落により、高いクリック率(以下、CTR)とコンバージョン率を得ることができる。このことは、”よくわかっている”グロース・チームにとっては注目せずにはいられない強力なチャンスを示すものであり、大規模プラットフォームに対して、ある程度難しい統合を実行し、初期段階で優位性の確立を期待できる。

Airbnbは優れたCraigslistへの統合により、まさにこれをを実行した。Airbnbは、数千万のユーザーを有するプラットフォームを選び、自動投稿ツールがほとんど提供されていなかったにもかかわらず、Airbnb上の物件リストをCraigslistにもシェアするための、すばらしいユーザーエクスペリエンスを作り上げた。これは製品にシンプルに、けれど、深く統合されており、 私が近年目にした中で最も目を引くアドホック統合の 1つである。明らかに、これは従来のマーケターでは思いつかなかっただであろうし、こんなことが可能であることすら知らなかっただろう。マーケティング志向のエンジニアであるからこそ、製品をよく分析し、これほどまでにスムーズな統合を実現することができたのだ。

以下にUI レベルでどのように機能するかを紹介した上で、技術的な部分を詳しく見ていこう:

(これらのスクリーンショットはルーク・ボーンハイマー氏からのQuoraでの素晴らしい回答を転載させてもらったものだ)

至ってシンプルに見えるだろう?これのすごいところは、Craigslistの公開されたAPI抜きで作られたものだってことだ!どうやってこのインテグレーションを成し遂げることができたのかは、Craigslistを注意深く見てみるとわかることだ。僕にとってはリファレンスを見ながら実装して新たに何かを生み出すよりも、既にうまく動いているものをリバースエンジニアリングするほうが百倍も簡単だ。だからこそ、僕はこのインテグレーションに心底感激したんだ。

「Craigslistへ投稿する」をリバースエンジニアリングする

まず始めにすべきは、Craigslistのユーザーがどのように投稿できるようになっているのかを確認することだ。APIがないので、自分が欲しい情報を仮入力するためにCraigslistをスクレイピングできるスクリプトを書いてフォームとやりとりをする必要がある。

Craigslistをいじっていると気づくのが、投稿をする度に自分のデータが保存される独自のURLが発行されることだ。https://post.craigslist.orgに飛ぶと、https://post.craigslist.org/k/HLjRsQyQ4RGu6gFwMi3iXg/StmM3?s=typeのようなURLにリダイレクトされる。そして、このURLがユニークなものとして発行されており、物件に関するすべての情報はCraigslistのクッキーではなく、このURLに関連付けられていることがわかる。

これは大量の情報がクッキーやサーバーに保存されている他のサイトとは異なる方法 だ。この投稿者の物件情報がURLと関連付ける彼ら独自の方法が意味するところは、ボットを作って、Craigslistにアクセスし、URLを発行してもらい、物件情報を入力し、URLをユーザに渡して、あとは最後に物件情報の公開を完了してもらうだけ、ということができるということだ。これがこのインテグレーションの基本だ。

そして、同時に、ボットはやりとりをするすべてのフォームの情報を知る必要がある。Craigslistのカテゴリーを指定するだけではなくて(これは単純だ)、地域情報の選択も必要だ。それにはCraigslistの提供対象になっているすべてのサイトにアクセスし、すべての地名とコードをスクレイピングしなければならない。幸運なことに僕らはCraigslistのサイド・パネル内に数百種類の個別のCraigslistのリンクから始めることができるね。

もう少し周りを掘り下げてみると、ある地域に関しては他よりも詳細に記されていることがわかる。たとえば、ほかのサイトにはサブエリアしかなかったり、サイトそのものしかない(それ以上の階層がない)のに対し、サンフランシスコの湾岸地帯にはサブエリア名(サウスベイ、ペニンスラなど)と、さらに細かい地区名(バーナル・ハイツやパシフィック・ハイツ)がある。だから、それらの情報すべてを自分のインターフェイスに盛り込む必要がある。

ただ次に、物件情報のリスティング時の問題がある。Craigslistではデフォルトでは、自分の物件の潜在的顧客への連絡手段として匿名のメールアドレスが提供されるようになっているのだ。顧客を自分のホームページへ誘導したいならば、メールアドレスを明記せずに「ご連絡はこちらへ」のリンクを貼る必要がある。もしくは、MailgunSendgridなどのサービスを使って、listing-29372@domain.comのような、適切な人にメールを自動的に送信してくれる特別なメールアドレスを用意して顧客からの問い合わせ先に指定することもできるかもしれない。

最後に、リスティングはやはり魅力的なものにしたい。Craigslistで利用できるHTMLには制限があるため、その範囲内でリスティングをより良く見せるようにしないといけない。

インテグレーションの完成はまだ始まりにしかすぎない。ここまできたら、次のステップは最適化だ。誰かがCraigslistへの物件情報のシェアを開始した後の完了率はどれほどか。その率を上げるためのフローやコール・トゥー・アクション(「シェア」のアクションを喚起するボタンやリンク)、フォームの手順をどのように変更することができるか。また、同様に、Craigslistからユーザが流入した際に、そのユーザがAirbnbでの購入を完了しようとしているのをどのように確認するのか。購入者に対して、特別なメッセージを表示する必要があるか?

これらの追跡には、独自URLのクリックの追跡や、1×1 サイズのGIFファイルをCraigslist上の物件情報に埋め込むなどの実装を、追加する必要があるし、細かい作業がもっとたくさんある。

長くなるはずの話を簡単に書いてしまったけれど、この種のインテグレーションは些細なことではない。注意すべき小さな対応がが無数にあるため、とてもスマートな人たちがこの初期統合を完璧にするために膨大な時間を費やしていたとしても、僕は驚かない。

従来のマーケターには見当もつかなかったインテグレーション

はっきり言おう。このインテグレーションはいわゆるマーケティング畑のマーケターたちの頭をかすめもしなかっただろう。これを可能にするために必要な技術的詳細が多くありすぎるからだ。結果として、Craigslist経由でより多くのユーザーを獲得させるというタスクに悪戦苦闘していたからこそ、技術者が思いつくことができた方法だったのかも知れない。Airbnbがこのインテグレーションからどれほどの利益を生み出しているか想像がつくだろうか?僕は、それはもうとんでもない額だと思っている。Airbnbは競争率が低いけれど、大量のトラフィックを獲得できるマーケティング・チャネルを選び出し、自社製品そのものの中にマーケティング機能を埋め込んだ。なにがベストかといえば、関わった者すべてにメリットがあることだ。物件を貸し出す側はAirbnbが用意した潜在欲求(より多くの潜在借り主に訴求したい欲求)を(Craigslitへのシェア機能により)簡単に実現できるし、借りる側は、より自身のニーズに合った物件をより良い写真や説明文を参照して探すことができる。

これは、一つの例に過ぎないが、この種のインテグレーションによって、新製品がその商品特性においてだけでなく流通戦略をも制すことができるようになるのだ。 こうするこで、2つのまったく同じ製品であったとしても、Craigslist、Twitter、Facebookとどれだけうまく統合するかだけの理由で、100倍も違う成果を出すことができるかもしれないのだ。今は本当に素晴らしい時代であり、技術を併せ持ったクリエイティブなマーケターたちが次々と生まれているのだ。このトレンドを、注意して追いかけていこう。

それじゃ、最後にもう一度おさらいしておこう

  • 歴史上初めて、FacebookやAppleのような超巨大プラットフォームが数千万もの顧客へのアクセスを可能にしている。
  • マーケティングの基盤が、ヒト中心からAPI中心に移行しつつある。
  • グロースハッカーとはプラットフォーム時代に成功するために生まれたマーケターとコーダーのハイブリッドである。
  • AirbnbのCraigslistとの連携は素晴らしい。

グロースハッカーの幸運を祈っている!(セミール・シャー @semil 氏に感謝を込めて)

(翻訳: Conyac、校正: @kyon8018 @aerodynamics)

GrowthHacker.jpでは、これからも、シリコンバレーの情報を紹介しつつも、日本のグロースハッカーについても紹介をし、日本のグロースハッカー間での情報交換の場所も作っていきたいと思っています。もし、あなた自身がグロースハッカーであると思うならば、あるいは、誰か素晴らしい経験とスキルを持った友人をご存知ならば、@GrowthHackerjp か yt [at] growthhacker.jp 宛に教えて下さい。また、3/16日にグロースハックをテーマとしてハッカソンGrowthathonを開催予定です(詳細はこのサイト内かFacebook Groupにてご連絡します)。日本のグロースハッカーコミュニティにご興味のある方、是非Facebook Groupにご参加ください。

Originally published at growthhacker.jp.

--

--

Entrepreneur, Computer Scientist, Cycle Road Racer, Beer Lover, A Proud Son of My Parents, Husband, Father, Trail Runner (**new**)